病院のWi-Fi導入率は?課題やメリット、安全な無線LAN環境の事例 3分でわかる!無線LANミニ知識
病院の統廃合、地域における質の高い医療の提供など、医療をめぐる諸課題の解決をするために求められているのが「医療分野の情報化」です。そのアプローチ方法は多種多様ですが、業務効率化などの実現に欠かせないのが「無線LAN(Wi-Fi)」の導入です。
実際、病院やクリニックにおけるWi-Fiの導入率は向上し続けており、適切に活用することで業務プロセスそのものを変革した「医療DX」の実現につなげたケースもあります。さらにWi-Fiを患者に開放することで、スタッフ以外の幅広い人にとってより良い環境を構築できます。今回は、病院とWi-Fiをめぐる状況やメリット、導入事例などを解説します。
病院におけるWi-Fi導入の状況
Wi-Fi(ワイファイ)とは無線LANの規格のことです。導入すればケーブル不要で複数の機器を相互に接続できるほか、インターネットにもつなげることが可能です。Wi-Fiは社会全体で幅広く普及しつつありますが、各産業の特徴、特性によって導入率、用途、そして導入時における課題は異なります。病院におけるWi-Fi導入の状況を確認してみましょう。
病院のWi-Fi導入率
2021年5月、医療機関における電波利用推進委員会が発表した「2020年度医療機関における適正な電波利用推進に関する調査の結果」によると、2020年度の有床診療所でのWi-Fi導入率は71.2%(調査対象1,254件)であることが明らかになっています。2018年、19年に行った同調査では、それぞれ54.1%、59.2%だったことから、Wi-Fiの導入率は直近では右肩上がりかつ19年から20年の間に約12%も増加したことが伺えます。
病院におけるWi-Fiの用途
2020年度医療機関における適正な電波利用推進に関する調査の結果では、すでに導入している回答した71.2%の病院を対象にWi-Fiの使用用途についてもアンケートを実施しています。その主な結果は以下のとおりです。
■病院におけるWi-Fiの使用用途(ランキング)
1.施設スタッフのインターネット接続用:74.1%
2.医療情報システム用:41.0%
3.患者様・外部訪問者のインターネット接続用:30.9%
4.医療機器用(一般X線撮影装置、超音波検査装置等のデータ伝送用):23.4%
5.音声通話・ナースコール用:7.7%
6.オンライン診療用:7.6%
7.その他:4.9%
8.見守りセンサ用:4.3%
上記のランキング3位の「患者様・外部訪問者のインターネット接続用:30.9%」を除く、ほぼすべての用途が職員・スタッフなど、病院内部の利用者向けであることが伺えます。特に1位の「施設スタッフのインターネット接続用」と比較すると2.5倍以上の差があるのが特筆すべきポイントといえるでしょう。現状、多くの病院施設にとっては「内部のネットワーク環境の構築」にWi-Fiが導入されるケースが多いと考えられます。
病院におけるWi-Fi導入の課題
導入している病院施設が過半数を占める一方、2020年の調査時点で「導入予定はない」と回答している25.4%の施設はどのような課題を抱えているのでしょうか。同調査における「電波利用機器の活用における課題」の結果から考えてみましょう。
まず、電波利用機器の導入における課題のトップは「セキュリティやプライバシーに関する不安がある:38.8%」であり、次点で「どのような機器を導入すべきかわからない:31.9%」となっています。さらに管理・運用の課題についても最も多かったのが「管理・運用するうえで十分な知識を持った人材がいない」、次が「どのような管理・運用ルールを設定すべきかわからない」といった理由です。
これらの理由から無線Wi-Fiによる利便性とリスクに対する正しい知識のほか、活用そのものの戦略やプロジェクト管理のノウハウを有する人材が各施設のスタッフでは少ないことが伺えます。この傾向は「無線LANの管理主体」の数値からも推察でき、現状の無線LANの管理主体で最も多いのが医師で、施設管理担当者、医療情報部門担当者、そして外部ベンダーの順になっています。
無線LANやWi-Fiのプロフェッショナルである外部ベンダーが管理しているケースが14.9%に留まっているのも、Wi-Fi導入に関する正しい知識や体制の構築が難しくなっている要因の1つといえるでしょう。
【参照】「2020年度医療機関における適正な電波利用推進に関する調査の結果」(電波環境協議会 医療機関における電波利用推進委員会)
病院にWi-Fiを導入するメリットと注意点
病院にWi-Fiを適切に導入するためには、事前にそのメリットと注意点を把握しておくことが重要です。代表的なメリットと注意点を紹介します。
病院にWi-Fiを導入するメリット
・業務の効率化につながる可能性がある
Wi-Fiを導入する代表的なメリットの1つが「業務効率化」の実現が図れることです。例えば、電子カルテを導入している場合、サーバーとパソコンやタブレットなどの複数のデバイスを円滑に共有することができます。医師、看護師、事務などの異なるスタッフが必要なタイミングで、タイムレスに患者の治療履歴などを確認できるため、資料を探す時間などを削減しやすくなると考えられます。
また、データ化した資料の一括管理なども可能になるため、電子カルテだけでなく各書類をまとめて電子化することで、大幅なペーパーレス化も推進しやすくなるでしょう。紙代をはじめ、印刷コストや複合印刷機の保守管理費といった費用削減にもつながります。
Wi-Fiにも性能の差があるため、安全性や通信速度のパフォーマンスが高い通信環境を構築できれば、より大きな業務効率化の効果を得られる可能性が高まります。
・患者や外部訪問者の利便性向上が期待できる
*「インターネット通信が快適な病院」としてのアピールにつながる
前述のとおり、現状、Wi-Fiは病院施設の内部の用途に用いられることが多いですが、患者や外部訪問者にも開放すれば、既存の環境にはない「価値」を提供できます。利用シーンとしては、「入院中」、「通院時の待ち時間」、「お見舞い時」などが挙げられます。Wi-Fiがあれば通常の回線よりも電波状況が良く、高速で通信量も気にならない環境を提供できるため、入院生活中の患者や外部訪問者の満足度を向上させることができるでしょう。
また、新型コロナウイルス感染症が流行した際、お見舞いが禁じられたうえ、満足にスマートフォンを使えない環境による入院患者の「孤独」が問題視されました。実際、国会議員が中心となった活動「#病室WiFi協議会」によって、新型コロナウイルス感染症の補助金に「病室の患者用Wi-Fi開設費用」が含まれたケースもあります。
上記のような患者の心理的な負担を軽減できる環境を改善できれば、インターネット通信が快適な病院として認知される可能性もあり、病院経営においても好影響が期待できるでしょう。
参考 https://wifi4all.jpn.org/hospital/new-top-rev.html
病院にWi-Fiを導入する際の注意点
・十分なセキュリティ体制を実現する必要がある
Wi-Fiを導入する際の注意点として特に注意すべきなのは、秘匿性の高い医療情報を保護するための「セキュリティ体制」の構築です。マルウェアなどの悪意のある外部からの攻撃はもちろん、スタッフによる情報の漏洩、持ち出し、紛失も含めたセキュリティ事故・事件を極限まで低減させる仕組みが求められます。
例えば、正規のユーザーしかネットワークにアクセスできないように「ネットワーク認証」が可能な機器を導入するほか、アクセスログの記録・保存などが挙げられます。さらに医療機器の電波干渉や不正利用を防ぐため、モバイルルーター携帯電話の禁止エリアを病棟で設けることも、併せて検討する必要があります。また、データの取り扱いについてもマニュアルなどを用意してスタッフに周知するといった施策も求められます。
医療機関が無線LAN(Wi-Fi)を導入する際の基本的なガイドラインは、厚生労働省が公表しているので参考にしてみましょう。
※出典:厚生労働省「総務省「無線LANのセキュリティに関するガイドライン」における医療機関で重要となる対策のポイント」
・導入や運用のコストがかかりすぎる恐れがある
病院にWi-Fiを導入する際、イニシャルコストと契約期間、機器のレンタル期間中のランニングコストを考慮する必要があります。具体的な費用は病院の規模や建物の構造、Wi-Fiの範囲(エリア)によって異なります。また、金銭だけでなく、Wi-Fiを管理するスタッフの時間的なコストも考慮し、費用対効果を得られるようにしっかりと計画を練ったうえで導入する必要があります。
病院でフリーWi-Fiを導入する危険性とは?リスクを抑える方法
病院へのWi-Fi導入におすすめの無線LAN機器・システム【事例あり】
Wi-Fiの導入を検討する際に必要な課題を洗い出したり、環境に適した機器やシステムをピックアップしたりするには、導入事例を確認するのが有効です。フルノシステムズが実際に医療機関のお客様に導入した製品と提供したソリューションについて紹介します。
無線LAN機器「ACERAシリーズ」
フルノシステムズが提供する「ACERAシリーズ」は、ICT機器を接続するための「業務用無線LANアクセスポイント」です。病院をはじめ、オフィス、学校、商業施設など幅広いシーンで利用されています。ACERAシリーズの特徴は、同時に複数のデバイスで接続しても遅延が少ない「安定性」、多様な場所に対応できる「耐環境性」といった信頼性の高さです。また、マネージド・スイッチPoE対応スイッチングハブやクラウド管理型など、導入する業種、施設、環境に応じて展開しているため、あらゆる条件下で無線LAN(Wi-Fi)を有効活用できます。病院においては、患者向けのフリーWi-Fiの提供のほか、電子カルテの円滑な運用基盤の構築など、患者・内部スタッフのどちらにとってもより良い環境を提供しています。
病院への導入事例
兵庫県にある総合病院では、患者と病院スタッフを円滑につなぐコミュニケーションツール「楽コール・システム」の導入に伴い、動画通信の大容量通信にも対応できる高品質な無線LAN環境の整備が必要でした。そこでフルノシステムズの無線LANアクセスポイント「ACERAシリーズ」を設置、画面越しに相手の顔が見える動画付きのナースコールとして実用化に成功。現在はナースコールだけでなく、患者と家族との面会としても活用シーンの幅を広げています。
さらに同病院では2019年に電子カルテの導入を決定。病院全体で無線LAN基盤を整備する必要があり、「楽コール・システム」で実績があったACERAシリーズを導入しました。その結果、多台数のパソコン、タブレット端末を安定して接続できるWi-Fi環境の構築を実現し、業務効率化やペーパーレス化などにつながっています。
各病院の課題に適した無線LAN(Wi-Fi)の導入を
病院とWi-Fiをめぐる状況と導入におけるメリット・注意点などを紹介しました。無線LAN(Wi-Fi)を適切に活用すれば、幅広い人、業務、シーンで非常に高い効果を発揮することができます。その一方、導入する機器や方法は各病院によって異なります。導入やその後の管理においては、信頼と実績の高い企業などに相談することをおすすめします。