知ってトクする!LPWAのこと コラムで学ぶ

川合良典


あらゆるモノがネットワークにつながる「IoT(モノのインターネット)」の時代が到来しつつあります。2017年頃からIoTビジネスに本格的に取り組む企業が徐々に増えてきているようですが、このIoTを実現するための通信手段として注目されているのが"LPWA"と呼ばれる通信手段です。世の中にあふれるたくさんのモノをネットワークで接続するためにはIoTに適した無線通信方式が必要となりますが、その接続方法がLPWAということになります。LPWAとはいったいどういうものなのか、その特徴や可能性、そして一般利用が間近となったLPWAの新たな規格「IEEE802.11ah/別名 Wi-Fi HaLow(ワイファイヘイロー)」など、LPWAにまつわるトピックについてご紹介していきたいと思います。

p1.pngあらゆるモノをつなぐIoT(モノのインターネット)のイメージ

【目 次】

LPWAってなーに?
LPWAはどんな通信に適したもの?
たくさんの種類があるLPWA、それぞれ何が違うの?
5GやWi-Fi、Bluetooth、RFIDなど他の電波との違いはなーに?
LPWAが普及することで私たちの生活にどのような変化や影響があるの??
今後も進化するLPWAの新規格『Wi-Fi HaLow』

LPWAってなーに?

LPWAとは『Low Power Wide Area』の頭文字をとった言葉です。LPWANと略されることもあります。その名が示す通り、ローパワー(省電力)かつワイドエリア(長距離・広範囲)の無線通信が可能な通信方式の総称がLPWAになります。

LPWAにはいくつか種類があるらしく、種類ごとにそれぞれ特徴は異なりますが、半径1キロメートル~数十キロメートルでの長距離データ通信を実現できるということがLPWAの最大の特徴だといわれています。また、私たちがスマートフォンを使用するときに接続しているLTEWi-Fiなどの通信方式に比べ、電力消費が低く抑えられることも特徴のひとつといえるでしょう。通信頻度などの条件にもよりますが、電池1本で数年間の稼働が可能なほど、電力消費を抑えた使い方もできるそうです。

LPWAは、接続した機器のモニタリング(監視)やトラッキング(追跡)、メータリング(検針)などを可能にする手段として主に用いられているそうです。ただ、長距離通信と低電力消費を得意とする反面、伝送できるデータ容量が少ないという側面があり、動画などの大容量のデータ通信を必要とする場面においては、LPWAは適してないともいわれています。

LPWAはどんな通信に適したもの?

スマートフォンやパソコンの通信では、LTEや5GWi-Fiといった高速大容量通信に強みを持つ通信方式が用いられています。最近、DXという言葉を耳にする機会があると思います。DXは『デジタルトランスフォーメーション』といって、社会のあらゆる分野でデジタル化を進めていこうという取り組みです。あらゆるモノがネットワークでつながるIoTが、DX推進の手段として今後より一層普及していくと考えられています。そんなあらゆるモノをつないでネットワークを構築するための通信手段として最適なのが、LPWAだといわれています。

たとえば、温度を測るセンサーの情報を、ネットワークで収集できるようにする仕組みがあるとします。センサーで得られる温度の情報を伝送する上で、大容量のデータ通信をする必要はありませんよね。1時間に一度、定期的に温度情報をセンターと送受信するといったケースでは、LPWAの通信が適しているのです。つまり、IoTには大きなデータをやり取りする必要がない代わりに、広範囲をカバーでき、かつ消費電力が少ないという特徴があるLPWAが適しているというわけです。

たくさんの種類があるLPWA、それぞれ何が違うの?

広範囲での無線通信を実現し、かつ少ない消費電力が強みとなるLPWA。ですが、LPWAはあくまでそのような特徴を持った通信方式の総称です。一口にLPWAといってもさまざまな通信規格があって、通信の速度や距離などに差があります。「LoRaWAN」や「SigFox」、「Wi-Sun」、「ELTRES」、「ZETTA」など、IoTの市場拡大を見込んでか、通信規格がたくさんあるといった、まさに群雄割拠状態です。それぞれの詳細や違いについてはひとつひとつ言及していくと長くなってしまうため、下記の図を参照いただければと思います。

LPWAの種類は、利用する無線周波数により、大きく分けると"ライセンス型"と"アンライセンス型"の2つの帯域に分別されると言えるでしょう。ライセンス型がLTEの周波数帯を使用しているのに対し、アンライセンス型は920MHz帯を使用する規格となっているそうです。

ライセンス、アンライセンスって、免許が必要かどうかってこと?免許が必要ってつまりどういうこと??と疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。アンライセンス型はその名が示す通り、無線ネットワークを構築・運営する際のライセンス(無線局免許)が必要ない規格です。ご家庭で設置しているWi-Fiと同じように自由に設置して使用することができる、といえばイメージしていただけるのではないでしょうか。一方のライセンス型は、無線局免許が必要となる規格です。ライセンス型の LPWA は携帯電話キャリアのように総務省から免許を取得して事業を運用する必要があるのに対し、無線局免許が不要なアンライセンス型の LPWA は個人や企業レベルで個別のネットワークを設置運用することが可能となる、という違いがあります。

ライセンス型は、一般的に大手通信業者であるキャリアが設置する基地局からの電波を用いるため、アクセスポイントを用意する必要がありません。高品質なサービスや広範囲をカバーできるメリットがありますが、一方でキャリアと契約するため月々の通信費がかさんでしまうこともあります。対するアンライセンス型は、ネットワークを構築・運営する人自身が電波を発するアクセスポイントを準備する必要があり、その電波が届く範囲内での通信に限られます。ネットワークの構築に手間がかかる反面、Wi-Fiのように通信費がかからないというメリットがあります。

なお、アンライセンス型であっても事業者が運営している通信規格もあり、基地局の設置に制限があったり通信利用料がかかるものもあります。

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5GやWi-Fi、Bluetooth、RFIDなど他の電波との違いはなーに?

LPWAについてここまでご紹介してきましたが、私たちの身の周りには5GWi-FiBluetoothなどたくさんの無線通信規格がありますよね。IoTに適していると言われるLPWAですが、他の通信規格はIoTには適していないのでしょうか?

IoTを実現する上で注目されている技術に5Gがありますが、こちらは「高速通信」や「大容量通信」、「低遅延化」といった特徴があります。ただ、5Gは大手通信業者であるキャリアが提供するライセンス型の通信となるため、運用する上で通信コストがかかるなどの課題もあります。高速大容量の通信が必要なく、低コストな通信方式が求められるセンサー情報の収集などにおいては、LPWAの方が向いているといえるでしょう。

5Gの一種で、企業や自治体などが限定したエリア内で利用できる"ローカル5G"と呼ばれる通信手段があります。大手通信業者であるキャリアが運営する5Gは全国で展開する通信サービスであるのに対し、企業や自治体が建物や敷地内といった特定のエリアで自営の5Gネットワークを構築して運用できるという特徴があります。しかし、ローカル5Gを運用するには無線局免許の取得が必要であることや、基地局の整備に多額の費用がかかるといったデメリットもあります。用途や目的、導入にかかる労力や初期費用、通信費などを踏まえもっとも適した通信手段を選択するのがよいでしょう。

Wi-FiBluetoothなど、私たちがスマートフォンを使う際に用いる通信手段とLPWAの大きな違いは、その伝送距離にあります。Wi-FiBluetoothがカバーできる範囲は、半径10メートルから最大でも数百メートル程度と限られます。一方のLPWAは、半径数キロ~数十キロの範囲をカバーできることが特徴となります。広範囲のエリアに設置したセンサー機器の情報を収集するためには、LPWAが最適な手段になると考えられますよね。

"RFIDタグ"など、コンビニなどの小売店や物流倉庫などで商品管理に使われているRFIDという通信方式があります。RFIDLPWAの違いについては、RFIDの通信範囲が1メートル程度に限られるということもありますが、RFIDはバーコード情報や交通系カード、電子マネーカードなどの人工的なデータを読み取る"リーディング"技術に強みがあります。一方のLPWAは、動きや温度、明るさなどの自然発生的な情報を感知するための"センシング"に強みがあり、使い分けがされているそうです。

LPWAが普及することで私たちの生活にどのような変化や影響があるの??

LPWAが普及することで、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。IoTを実現するための通信手段ということで、今後より一層の普及が見込まれますが、この技術は私たちの身の周りで実際にどのように使われているのでしょう。

LPWAは、産業活動や公共サービスはもちろん、個人の生活にいたるまでのさまざまなシーンで情報を収集して、集めたデータを"見える化"するための手段になっています。具体的には、LPWAで接続したセンサー類を使い、離れた場所にあるモノやその周囲の状況を把握することができるようになります。そして、センサーによって取得した情報をもとに、ネットワークに接続した機器を作動させるといった制御が可能になります。監視機能と制御機能を組み合わせることで、システムの自動化や最適化を実現することにつながります。最終的には、LPWAで接続した機器やセンサーから得たデータをAI(人工知能)で分析し、ネットワーク上の機器を自律的かつ継続して運用するといったことも可能になり、人の手がかからない効率的なソリューションを生み出すこともできるようになります。たとえば、産業の分野であれば工場内の機器の効率的な稼働を支えたり、物流や輸送における効率化を実現することが可能になります。農林水産業といった第一次産業の分野においても、センシング機器を活用した情報収集による環境変化の把握や収穫の効率化などに技術を活かすことができるでしょう。公共サービスの分野であれば、河川の水位を計測するネットワークを構築して河川氾濫などの自然災害による被害を未然に防ぐ手段として活用することも可能です。将来的には、個人の生活における場面での活用も想定されており、スマートシティなどを支える技術にもなり得ると期待されています。

今後も進化するLPWAの新規格『Wi-Fi HaLow』

このようにあらゆる可能性を秘めたLPWAですが、今後新しい規格が使われるようになることで、性能や利便性はより一層高まっていくものと思われます。現在(2022年6月時点)一般利用に向けて準備が進められている『Wi-Fi HaLow(IEEE802.11ah)』と呼ばれるLPWAの新しい通信規格では、従来のLPWAの通信方式に比べて伝送容量が大きくなることで、監視カメラで撮影した画像や映像などを送受信できるようになると期待されています。映像の送受信がLPWAで可能になれば、たとえばセンサーで取得した河川の水位情報に加えて、河川の水位の状況変化を遠隔からリアルタイムで目視できるといったことも可能になります。現地に赴く必要がなくなり移動の負担や危険回避に役立ちます。また、広い敷地をもつ農園などにカメラを設置してWi-Fi HaLowでネットワークを構築すれば、イノシシや鹿による農作物への被害を見守ることも可能になります。私たちの身近なところでは、オフィスの空調やエレベーターなどのビルメンメンテナンスといったケースで、画像による設備の監視・管理ができるようになると想定できますし、ご家庭においてもカメラによる防犯や、介護のための見守りといったシーンにWi-Fi Halowを活用できるのではないかと考えられます。

人手不足による省人化・効率化が求められていく将来に向けて、LPWAの用途は幅広く増えていくものと考えられています。さまざまな種類があるLPWAですが、それぞれの規格が適材適所で多くのシーンで活用されるようになると予想されます。私たちの身の周りでもLPWAが当たり前に使われるようになってくることで、生活がより一層豊かになっていくものと期待されます。

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