持続可能な林業の実現に向けた Wi-Fi HaLow™活用の取り組み(後編)
徳島県那賀町 持続可能な林業へ-取り組み内容と成果まとめ- 技術レポート

IoT推進室 室長 川地耕二

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全国の林業地域で共通する課題を踏まえ、私たちは 危険度の高い集材作業における安全確保と負担軽減 に焦点を当てた実証実験を森林資源が豊富な徳島県那賀町で行いました。
後編では、その実証内容の概要と、現場で確認できた効果や今後の可能性をご紹介します。

前編はこちらより

集材作業の安全確保・効率化に向けた取り組み

林業現場で危険を伴う「集材作業」の実態

伐採した木を山から運び出す「集材作業」において、労働環境改善は大きなテーマとなっています。急峻な山地が多い那賀町では、伐採現場まで車両が入ることが困難なため、多くの現場で図のような「架線系集材」が実施されています。

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集材作業の現場と、皆伐後の斜面状況

土場(集積場)の様子

伐採現場では、切り倒された木材をワイヤーを使って運搬するために、吊り上げ用フックに木材を括り付ける「荷かけ」作業が実施されています。

足場の悪い急峻な現場で作業者はこれらの作業を一日中行う必要があり、相当な重労働が強いられています。実際に現場の作業者からも、「過酷な作業なため代替手段が望まれる分野である」との声が聞かれました。

さらに懸念される点は、荷かけ作業は、木の落下・移動時の転落・激突・挟まれなどによって死亡事故の発生リスクが非常に高く危険な作業であることです。架線系集材の死亡災害は、林業における死亡災害の8%を占め、そのうち約69%が荷かけ作業中に発生しています。

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    架線系集材での荷かけ作業の手順と課題

    実施手順

    • 作業開始時、集積場から伐採した木や切り株が散在する急峻な斜面を登って伐採現場まで向かう。
    • 伐採場に搬器が到着後、木にワイヤーを括り付け、搬器からのフックに取り付ける。
    • 搬器による木の吊り下げ時、1トン以上もある木に激突しないよう作業者退避。

    課題

    • 足場の悪い作業環境における長時間労働
    • 死亡事故のリスク

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    集材作業における労働環境の改善のため、那賀町と徳島県に本社のある株式会社徳工は10年前より架線式グラップルと呼ばれる集材機械の開発に取り組まれています。

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    この手法では、ワイヤーによって木を括り付ける代わりに、グラップルにより木を掴み、架線を使って木を搬出します。

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    これまでは集積場と伐採現場の2人の作業者がそれぞれリモコンをもちグラップルの操作を行っていました。これにプロセッサと呼ばれる林業機械を使用して、集材した木の枝を取り除き(枝払い)、一定の長さで木を切り揃える作業(玉切り)を行う作業者を加えた3人の構成が、基本的に集材を行う際の人員構成となります。

    Wi-Fi HaLow™の活用。フルノシステムズ・古野電気参加による現地実証実験始まる。

    さらなる労力削減と安全確保を目指し、2024年度より、古野電気およびフルノシステムズが那賀町の取り組みに参加しました。

    実証実験では、グラップルにカメラを取り付け、遠隔で操作する実験を行っています。林業現場は携帯電話の電波も届かない環境が多く、また集積場からグラップルまでの距離が数百メートルと遠いため、集積場~グラップルの通信には「Wi-Fi HaLow™」を採用しました。動画も伝送できる「Wi-Fi HaLow™」は、2022年から日本国内で利用可能となったIoT向けの通信規格です。

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    ▽タブレットを確認しながら作業する様子

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    カメラを使ったグラップルの遠隔操作が実現できれば、集積場からグラップルの遠隔操作が可能となるため、過酷な急斜面での作業が不要となり、集積現場での事故発生の可能性を排除できます。また、生産性の面でも、3人の作業者が2人で実施可能となるため1.5倍となります。さらに、現状では雨天時は斜面が濡れてすべり危険なため作業は中止していますが、集材作業が集積場で完結するため、雨天時も作業できる可能性があります。

    2024年度の実験では、本システムを使用したグラップルの遠隔操作による集材作業に成功しました。

    課題解決に向けて。改善とあらたな取り組み

    取組① 中継器の追加

    背景:2024年度実証実験で顕在化した課題

    2024年度の実験では、集積場のアクセスポイントとカメラをWi-Fi HaLow™で直接接続していました。集材現場には様々な起伏が存在しますが、グラップルが起伏の陰に入ってしまった場合、見通しがとれず、電波が途切れてしまうという問題がありました。

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    今年度の取り組み 中継器と指向性アンテナによる設計変更

    2025年度は、グラップルを前後あるいは上下に移動させるための搬器(はんき)にWi-Fi HaLow™の中継器を内蔵。接続経路を「集積場親機→中継機→カメラ」に変更しました。さらに、集積場の親機には指向性アンテナを採用し、受信感度の向上を図りました。

    結果:これらにより、起伏の裏側、集積場から見えない場所においても、通信が安定し遠隔でグラップル操作が可能になりました。

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      ▽搬器と中継器の写真

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    取組② カメラの性能向上と画角改善

    カメラを2024年度より画質の良いものに変更しました。また、2024年度はグラップルの真上にカメラを設置したため、カメラ、グラップル、木が一直線に並んでしまい、距離感が掴みにくいという問題がありました。今年度はカメラの位置を横にずらして、グラップルと木を斜めから捉えるように改善しました。

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    現場の方の話では、作業者が人力でワイヤーによって木を括り付ける手法(荷かけ)では、集積場からの往復に8分程度を要するそうです。カメラを使った遠隔操作では、2024年度はこれの1.5倍程度の時間を要しましたが、上記改善によって荷かけと同程度での集材が可能となりました。

    実際の映像はこちらです。

    現場で得られた成果と気づき

    最後に、カメラを使った遠隔操作の様子を動画で紹介します。動画では、グラップルが集積場から出発し、伐採現場において目標となる木を遠隔操作で掴み、集積場まで移動させる様子が撮影されています。

    課題解決に向けた今後の可能性と方向性

    今回の実証実験では、危険度の高い集材作業において、Wi‑Fi HaLow™とカメラを活用したグラップルの遠隔操作を実現し、安全性と効率性の両立に大きな手応えを得ることができました。

    特に、急峻な現場での作業を不要にできることで事故リスクの低減につながる点や、作業人員の削減・生産性向上といった効果が確認されたことは、林業現場における大きな前進と言えます。

    また、通信の安定化(中継器・指向性アンテナ)やカメラの改善により、実用化に向けた具体的な課題とその解決策も明確となりました。これにより、従来手法と同等の作業時間での運用が可能になり、現場導入の現実性も高まっています。

    今後はさらなる操作性向上や環境適応性の強化を進めるとともに、多様な現場での検証を重ねることで、本技術の実用化と普及を目指していきます。
    林業DXの推進を通じて、安全で持続可能な林業の実現に貢献していきます。



    本取り組みにご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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