医療におけるICT|必要性とメリット、現状の課題は?【導入事例付き】 3分でわかる!無線LANミニ知識
医療機関が抱える様々な課題の解決につながるとして、近年、「医療のICT化」に取り組むケースが増えています。ICT化を含む医療分野におけるデジタル技術の活用事例は失敗・成功を問わず、多様な事例があるため取り組む際はメリットや課題をしっかりと把握したうえで、各病院やクリニックの状況に落とし込む必要があります。そこで今回はICTの基礎知識と医療分野におけるメリット、導入に関して顕在化している課題について解説します。
医療におけるICTとは?
ICTの基礎知識について、よく混同されるITと比較しながら紹介します。また、医療業界でICTの注目が高まっている理由についても解説します。
ICTとITの違い
ICTはInformation and Communication Technologyの略称で、日本語では「情報通信技術」といいます。IT(Information Technology)もコンピューターネットワークを使って情報を「入手・保存・伝達する技術」の総称なので、混同されがちですが、ICTはITよりもデジタル技術によって「情報を共有する(コミュニケーションする)」という意味合いが強いです。
実際、医療業界におけるICTではタブレットやカメラ、インターネット、アプリといったデジタル技術を用いて、離れた場所や通院が難しい患者の診療を可能にする「遠隔診療」などが代表的です。このように医療のICT化には、医療側と患者側、もしくは患者の情報を医療組織内で共有することで、コミュニケーションの創造、改善を図る技術を「ICT」と呼称するケースが多いです。
医療におけるICT導入の必要性
世界でも「異次元」とされる少子高齢社会を迎えている日本の医療業界では、増える高齢者に対する医療従事者の不足による一人あたりの作業量の増加のほか、国民一人あたりの医療費の増大など、医療業界全体の効率化を図る必要性が高まっています。
ICT化による医療の「情報化」が促進できれば、医療従事者の業務効率化を実現し負担軽減につなげられるほか、一日あたりに診察できる患者の増加、健康管理をしやすくなることで病気の発症を防ぐ「1次予防」の促進など国レベルで医療負担の軽減につなげられるでしょう。また患者の情報などを異なる医療機関でも円滑に共有できるような情報連携体制が整えば、よりその効果を広げることができるため、医療のICT化は病院やクリニック単位はもちろん、業界全体で推進すべき必要性があるのです。
医療分野のICT化によるメリット
医療分野のICT化における代表的な3つのメリット「業務効率化」、「地域格差の是正」、「研究開発の促進」について紹介します。
業務効率化が図れる
現状、医療業務と並行して行わなければならない事務作業を効率化、自動化することで業務量を軽減できるのがICT化の大きなメリットです。例えば、電子カルテを導入すればカルテを記入する手間が削減できるほか、情報を検索、参照が容易になるので意外と時間がとられる「資料を探す時間」を減らせます。
医療業務は診察だけでなく、特に人材不足が深刻な医療現場においてはカルテや診断書の作成、システムへの入力といった一人あたりの作業量は増加しやすく、担当者の定着率の悪化などにつながるリスクが高まります。ICT化を図れば資料作成から患者の対応、簡単な問診といった幅広い情報、コミュニケーションの効率化が期待できるため、導入を検討する医療機関が増えていると考えられます。
医療の地域差を埋められる
医療サービスに関わる受ける際の格差を「医療格差」といいます。そのなかでも医療の地域格差とは居住している国や地域によって受けられる医療サービスの差を指し、一般的には先進国と発展途上国などを比較する際に用いられます。
日本においても「都心」と「地方の島しょ部」などを比較すると、病院や医師、専門医の数が地域によって受けられる医療サービスは異なります。さらに過疎化などで地方の病院が廃業や移転するケースも少なくなく、将来的には格差が広がるという見方もあります。ICT化でオンライン診療などの遠隔医療が可能になれば、場所を問わずに診察や服薬指導が可能になるため、格差の解消にも効果があると期待されています。
新しい治療法・薬の開発に役立つ
紙や個別のパソコン、ファイルで保管しているデータをICT化によって集約できれば、より効率的に臨床データを集めやすくなります。臨床データは難病やがんなどの研究に役立つため、データを分かりやすくまとめることそのものが医療の発展にとって重要な役割を果たすことにもつながります。
医療分野におけるICT化の主な課題
ICT化に取り組む際に注意すべき4つの課題について解説します。自身の病院やクリニックの環境と比較しながら確認してみてください。
電子カルテの普及が遅い
ICTによる業務効率化や情報共有の円滑化に欠かせないのが、紙のカルテをデジタル化して管理する「電子カルテ」です。厚生労働省によると、電子カルテの普及率は右肩上がりではあるものの、200床未満の病院の普及率は過半数を切る48.8%と十分な数値ではありません。「紙のカルテの作成、管理方法しか分からずに脱却が難しい」、「導入コストが大きい」といった障壁は、小規模な病院であるほど大きくなる傾向があります。
〈電子カルテシステム等の普及状況の推移〉
一般病院 |
病床規模別 |
一般診療所 |
|||
400床以上 |
200~399床以上 |
200床未満 |
|||
平成20年 |
14.2% |
38.8% |
22.7% |
8.9% |
14.7% |
平成23年 |
21.9% |
57.3% |
33.4% |
14.4% |
21.2% |
平成26年 |
34.2% |
77.5% |
50.9% |
24.4% |
35.0% |
平成29年 |
46.7% |
85.4% |
64.9% |
37.0% |
14.2% |
令和2年 |
57.2% |
91.2% |
74.8% |
48.8% |
49.9% |
【出典】電子カルテシステム等の普及状況の推移(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938782.pdf
ICTの対応について病院ごとに差が出やすい
ICT化にともなう端末や機器、ソフトウェアは導入後も適切に運用し続けなければ十分な効果を発揮することはできません。また、導入する医療機関、医療現場によってITリテラシーのある人材の有無や環境も異なるため、運用体制を最適化できなければ費用対効果が小さくなるリスクが高まります。例えば、ICTの機器は業務を行うスタッフの一部が仕様できるだけでは、そのスタッフに業務のしわ寄せが起こってしまうといった悪影響も想定されるため、講習会などを実施して現場全体でICTの活用レベルの「平準化」を目指す必要があります。
患者の個人情報に対するセキュリティ対策が必要になる
基本的にICT化はネットワーク上での情報共有が不可欠です。そのため、アナログでは考慮する必要性が低かったハッキングなどによる情報漏えいを防ぐためのセキュリティ対策も求められます。セキュリティソフトの導入はもちろん、個人情報の取り扱いマニュアルの作成、周知、運用、さらに適切なアクセス権限の付与といった管理体制そのものの構築も必要です。
システムエラーに対する備えが必要になる
ICT化によってデジタル情報が中心になると、災害や停電、トラブルによってシステムエラーが生じると業務に大きな悪影響を及ぼすリスクが高まります。そのためシステムエラーが起こった際も医療業務を遂行できる仕組みづくりが欠かせません。
医療分野におけるICTの導入事例
鈴鹿グリーンホームは三重県鈴鹿市にある特別養護老人ホームです。近年、注目が集まっている介護ロボットの導入にいち早く着手した施設で、2016年にはICT機器や介護ロボットを組み合わせた独自システムを構築しました。介護ロボットが利用者の状況や要望を収集することで、スタッフの居室の訪問頻度や介助のタイミングの最適化が図れており、利用者のストレス軽減と介護スタッフの負担軽減につながっています。
介護現場で求められる「適切かつ早急な対応」を実現するためには、介護ロボットとスタッフが携帯しているタブレットなどのICT機器をつなぐ、安定した無線LAN設備が不可欠です。そこで採用されたのがフルノシステムズの業務用無線LANアクセスポイント「ACERA」でした。現在、ACERAは同施設に計40台設置されており、効率的で高い介護サービスの提供を支え続けています。
【参考リンク】https://www.furunosystems.co.jp/experience/2022/07/001199/
医療のICT化でより良いサービスの提供を
ICTの基礎と医療分野におけるメリット、課題、事例について解説しました。医療分野にICTを導入すれば、医療側、患者側はもちろん、患者の家族や社会にとってもより良い効果が波及する可能性があります。医療分野への導入経験が豊富な設備や専門企業の支援を受ければ、少ない労力で顕在化している課題への対策も可能なのでぜひICT化を検討してみてください。