ICT教育における課題とは?問題点の解決策と国の対策、導入事例を紹介 3分でわかる!無線LANミニ知識
近年は、教育をデジタル化する「ICT教育」に取り組む学校が多くなっています。ICT教育は生徒や教員をはじめとした学校関係者に大きなメリットをもたらす一方で、教育現場ではICTの活用状況や業務負担に関する課題が少なくありません。そこで本記事では、ICT教育における課題と解決策、国の対策事例、導入事例などをご紹介します。教育現場へICT教育を普及させるために、ぜひ参考にお読みください。
ICT教育とは?
初めに、ICT教育に関する基礎知識を解説します。ICT教育の概要や必要とされる背景について、改めて確認してみましょう。
ICT教育とは?
ICT教育とは、パソコン・タブレット・電子黒板といったデジタルデバイスや、インターネットなどの技術を活用した教育方法のことです。ICTは「Information and Communication Technology」の略語であり、日本語では「情報通信技術」と訳されます。ICT教育を運用するためには、学習者用のハードウェア・ソフトウェアのほか、無線LANなどのネットワーク機器、セキュリティソフトなどのさまざまな設備が必要です。多様なツールやデジタル教材を活用することで、従来はアナログで行っていた教育のデジタル化を実現します。
ICT教育が必要とされる背景
ICT教育への注目が高まる大きな契機となったのが、2019年に文部科学省が提唱した「GIGAスクール構想」です。GIGAとは「Global and Innovative Gateway for All」の略で、"多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境"の実現が掲げられています。教育現場では、GIGAスクール構想へ向けて「1人1台端末」や「高速大容量通信ネットワーク」の整備が求められている状況です。このほかに、新型コロナウイルス感染症の影響にともないリモート授業の実施数が増加したことも、ICT教育の必要性が高まった要因の1つとされています。
【参考】「GIGAスクール構想の実現へ」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20200625-mxt_syoto01-000003278_1.pdf
ICT教育とは?目的やメリット、デメリットや課題【実践事例付き】
https://www.furunosystems.co.jp/column/2023/04/001504/
ICT教育における日本の現状【世界との比較】
現状の日本の教育現場におけるICT教育の整備状況は、全国の小・中・高等学校で生徒1人につき端末1台を利用できる環境が整った段階となっています。しかしながら、日本のICT教育は先進国に後れを取っているのが現状です。海外の教育現場では、すでに「デジタル教科書の無償利用」「プログラミング教育の義務化」「AI教育の推進」といった取り組みが進んでいます。今後、日本がICT教育を推進していくためには、現場で弊害となっているさまざまな課題の解決が不可欠だといえるでしょう。
ICT教育の主な課題
続いて、ICT教育をめぐる教育現場の課題をご紹介します。施策を主導する教育機関や、現場の教員・生徒が直面している課題を把握しておきましょう。
地域ごとのICT活用の差
ICT機器の導入・整備は、各自治体の教育委員会や学校が主導することが一般的です。こうした背景から、地域や学校ごとの方針やICT教育に対する熱量によって、ICTの活用方法や成果に地域格差が生じているという課題があります。例えば、ICT教育に必要な機器や無線LANの整備率は、自治体によって偏りが発生している状況です。
【出典】「令和2年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20211122-mxt_shuukyo01-000017176_1.pdf
教員の負担の増加
ICT教育の導入で教員に新たな負担が生じてしまうケースも少なくありません。現場では、「ICT教育の推進」と「教員の業務負担軽減」の両立が課題となっています。本来であれば、ICT教育の推進は現場の負担軽減につながると期待されています。校務のデジタル化によって、教材作成をはじめとした授業の準備・学校行事の準備・成績処理などを効率化することが可能です。教員の長時間労働が解消されれば、結果として生徒に適切な教育を行いやすくなります。
ところが、現状は担当教員が従来の業務に加えてICT機器やネットワークの運用・管理・保守への対応を求められ、負担の増加が懸念されています。また、ICTの活用には専門的な知識や技術が必要なため、教員のスキル次第ではツールの使い方を覚えたり学習活動に取り入れたりする負担が大きくなるでしょう。
【出典】「令和3年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査【結果概要】」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20220304-mxt_zaimu-000019724_1.pdf
インターネット利用によるトラブル
生徒にとってタブレットやパソコンなどのデジタルデバイスが身近になると、教員や保護者からの目が届きにくくなり、トラブルに巻き込まれるリスクが高まります。例えば、SNSで知り合った第三者と対面して犯罪に巻き込まれたり、投稿した写真から個人情報を特定されたりするトラブルが挙げられます。
教員のITリテラシーの格差
学校教育におけるITリテラシーとは、ICT教育に関する知識や、ITを活用する能力などを指します。現状は、ITリテラシーを向上させるための研修やサポート体制の整備が不足し、教員が最新の知識や運用技術を習得できていないケースが少なくありません。また、教員が多忙で学習時間の確保が難しいことも、ITリテラシーの格差を生んでいます。
学校全体でITリテラシーの平準化とボトムアップを図らなければ、ICT教育に関わる業務が属人化し、リテラシーの高い教員に負担が偏るおそれがあるでしょう。それだけでなく、各学級や教科等でICT活用のレベルが異なる場合は、文部科学省が掲げる公正な教育の実現が難しくなるという問題もあります。
インターネット回線の確保
ICT教育の運用には高速大容量通信ネットワークが不可欠です。ところが、文部科学省が公表した「令和7年度 概算要求主要事項」のデータによると、同時・多数・高頻度での端末活用を想定した通信ネットワークの推奨帯域を満たしていない学校が、約8割もあるとされています。校内のインターネット回線に問題があると、授業や校務へ悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、「回線速度が遅い」「オンライン授業が途切れてしまう」「教材のダウンロードに時間がかかる」といった不具合が学習効率の低下につながりかねません。
【出典】「令和7年度 概算要求主要事項」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20240827-ope_dev02-000037780_6.pdf
費用負担の増加
ICT教育は予算の確保の観点でもさまざまな課題があります。現状では多くの学校が生徒1人に1台の端末を整備しているものの、端末の維持管理で継続的にかかるコストの負担が問題視されている状況です。タブレットをはじめとした電子機器には寿命があるため、継続的に機器の更新費用が発生し、費用負担の増加が懸念されています。
思考力や表現力の低下
ICT教育は生徒の情報活用能力や情報モラルの向上に貢献する一方で、粘り強く考える力が低下すると懸念されています。インターネットで検索すればすぐに答えが分かる学習環境では、生徒が自分で考えて答えを出すような学習機会が少なくなると考えられるでしょう。このほかに、文章を書く上で必要な「自分で情報を整理する力」や「論理的に考えて表現する力」が育ちにくくなる点も懸念されています。
ICT教育の課題に対する解決策
前述したICT教育の課題を解決へと導くには、どのような対策を講じればよいのでしょうか。ここでは、ICT教育をスムーズに実践するために、課題の解決策を解説します。
オンライン学習プラットフォームの活用
インターネットを通じて授業や教材に取り組めるシステムを「オンライン学習プラットフォーム」と呼びます。プラットフォーム上では生徒たちが自主的に投稿したり、質問したり、アドバイスを受けたりすることが可能です。オンライン学習プラットフォームの活用によって、ICT教育における格差の解消が期待できます。
一部業務の外部委託
ICT教育に必要な一部業務を専門業者にアウトソーシングする方法は、「教員の負担増加」や「ITリテラシーの格差」に対する有効な手段だといえます。具体的には、ICT教育の環境整備やネットワークの運用・管理・保守のほか、授業用コンテンツ制作といった業務を外部委託することが可能です。支援員や外注業者を上手に活用することで、教員が従来の業務と並行して効率的にデジタル環境に移行しやすくなるでしょう。
生徒へのネットリテラシー教育
「インターネットリテラシー(ITリテラシー)」とは、インターネットを適切に使う能力のことです。学校側がインターネットの使い方に一定のルールや制限を設けることで、子どもたちのリスク軽減につながります。そのためには「個人情報保護の重要性」「フェイクニュースの見分け方」「著作権や肖像権」といった最新のテーマを教育に取り入れて、理解度を高めることが大切です。外部の専門家を招いて講義を行ったり、専門家からルール設定の助言を受けたりして、継続的にネットリテラシー教育を実施すると良いでしょう。また、各家庭との連携によって授業外でのインターネットの利用ルールを決めることも有効です。
教員が必要な知識を得るためのフォローアップ
教員がICTを活用して校務や授業を効果的に行えるように、学校や教育委員会がスキル習得をフォローアップすることも大切です。教員向けの定期的な勉強会の実施や、専門業者による講習といった対策が挙げられます。
保護者への啓発活動
保護者の中にはICT教育に対して「サポートの仕方が分からない」「子どもの健康や情報モラルが心配」「遊んでいるのか勉強しているのか分からない」といった不安の声が少なくありません。こうした保護者にICT教育の理解を深めてもらうために、学校側は啓発活動としてICT活用の事例や注意点をまとめた情報提供を行うと良いでしょう。また、オンラインの相談窓口を設置し、保護者とのコミュニケーション活性化を図ることも有効です。
授業をサポートするツール・システムの導入
授業をサポートするツール・システムを導入して、業務効率化や品質向上を実現しましょう。その際は、専用のツール・システムによる自動化を図るほか、オンラインで配布される教育用コンテンツを活用することで教員の負担軽減を実現できます。
ICT教育を行う目的の明確化
ICT教育をめぐる課題は、学校や地域によって大きく異なります。個々の学校・地域に適したICT教育を実施するためにも、導入前に「なぜICT教育の実現に取り組むのか」という明確な目的を共有した上で、具体的な解決策を検討することが重要です。
デジタルとアナログを融合した授業の実施
授業では、手書きや口頭によるアナログな表現とデジタルの利便性を組み合わせると効果的です。生徒の思考力や表現力を伸ばす学習方法を検討しましょう。例えば、タブレット端末を使って手書きさせる学習方法が挙げられます。また、ディスカッションの機会を設けて生徒が話す・伝える時間を増やすと、論理的に考えて表現する力が育まれます。
機器や通信インフラの整備
現状の校内のICT機器やインターネット環境に不具合が生じている場合は、速やかに整備することが大切です。導入の際は地方財政措置を活用し、教育委員会と連携して整備を進めると良いでしょう。このほかに、校内の設備の構築や運用をICTの専門家に任せる方法も効果的です。教員の負担が大幅に軽減されることで、子どもたちの指導に集中しやすくなります。
ICT教育の課題解決を促す国の対策例
ICT教育の推進で変化に直面する教育現場を支援するために、国ではどのような対策が実施されているのでしょうか。ここでは、ICT教育の課題解決を促す国の対策例をご紹介します。
GIGAスクール構想支援体制整備事業
・学校の通信ネットワーク速度の改善
学校内外の通信ネットワーク構成を評価し、課題の把握や原因箇所の特定を行う「ネットワークアセスメント」が実施されています。教育現場はアセスメント結果を踏まえて、機器の入れ替えや設定変更による環境改善を図ることが可能です。
・次世代校務DX環境の全国的な整備
自治体が次世代校務DX環境を整備するための支援が実施されています。例えば、校務系・学習系ネットワークの統合にかかる費用や、校務支援システムのクラウド化にかかる費用を支援するほか、準備プロセスの支援を受けられます。
・学校DXのための基盤構築
学校DXを実現するために、専門家による基盤構築の支援が実施されています。教育情報セキュリティポリシーの策定・改定のほか、セキュリティリスクアセスメント、端末利活用といった技術的なコンサルティングにかかる費用に対して支援を受けられます。
出典:文部科学省「令和7年度教育DX・GIGAスクール構想関係予算(案)の内容」p.3
https://www.mext.go.jp/content/0250131-mxt_syoto01-000038688_1.pdf
学習者用デジタル教科書の導入
学習者用デジタル教科書の購入費用の負担を軽減し、活用を促進する施策が行われています。例えば、すべての小・中学校を対象に英語のデジタル教科書が提供されるほか、一部の小学校5年生~中学校3年生を対象に、算数・数学のデジタル教科書が提供されます。
出典:文部科学省「令和7年度教育DX・GIGAスクール構想関係予算(案)の内容」p.7
https://www.mext.go.jp/content/0250131-mxt_syoto01-000038688_1.pdf
生成AIの活用を通じた教育課題の解決・教育DXの加速
生成AIの利活用に関する実証研究が実施され、今後の利活用へ向けた事例収集が行われています。また、学校現場への実態調査や事例集の作成によって、成果や課題を検証しながら普及促進やリスク対処の検討が進められています。
出典:文部科学省「令和7年度教育DX・GIGAスクール構想関係予算(案)の内容」p.5
https://www.mext.go.jp/content/0250131-mxt_syoto01-000038688_1.pdf
ICT教育の実践事例
最後に、ICT教育の実践事例をご紹介します。以下の活用事例を、より良いICT教育を実現するための環境整備にお役立てください。
つくば市教育委員会様のICT導入事例
つくば市教育委員会様では、1977年に市内の小学校で日本初のコンピューター教育を開始しました。その後、2000年代中頃より普通教室でも学習用端末を用いて授業できる環境を構築。現在は1人1台端末の環境を構築し、ICT教育の先進的な取り組みを実施しています。フルノシステムズも無線LANアクセスポイント「ACERA(アセラ)」を設置することで、円滑なネットワークの環境の構築に寄与しています。
【参考リンク】つくば市教育委員会 様
https://www.furunosystems.co.jp/experience/2022/12/001444/
高砂市教育委員会様のICT導入事例
高砂市教育委員会様では、2020年度より市内の小学校・中学校における教育ICT環境の整備に着手しています。2023年度には、市内の小学校6校・中学校10校すべての普通教室・特別教室に無線LANアクセスポイントの設置が完了しました。フルノシステムズが提供するWi-Fi6準拠の無線LANアクセスポイント「ACERA(アセラ)」で構築された学校ネットワークが、授業の円滑な進行を支えています。
【参考リンク】高砂市教育委員会 様
https://www.furunosystems.co.jp/experience/2025/03/001818/
湘南学園様のICT導入事例
湘南学園では、通信が不安定な従来の学園内ネットワークを見直し、2023年4月より無線LANの刷新によって安定した通信環境を構築しました。通信環境のアップデートにあたり導入したのは、多台数端末の同時通信に耐え得るフルノシステムズ製の無線LANアクセスポイント「ACERA(アセラ)」です。通信の不具合で学習の機会を妨げることなく、授業を安定して進行できる通信基盤を確保しました。
【参考リンク】湘南学園 様
https://www.furunosystems.co.jp/experience/2024/11/001744/
ICT教育の課題を解決するフルノシステムズの業務用Wi-Fi
ここまで、ICT教育における課題と解決策、国の対策事例などを解説しました。近年は学校現場におけるICT活用推進の重要性が高まっているものの、活用状況の地域格差や安定したインターネット回線の確保など、課題が少なくありません。フルノシステムズでは、こうしたICT教育の課題を解決する業務用Wi-Fiのソリューションをご提供しています。教育現場における環境整備や導入のご提案も可能です。どうぞお気軽にお問い合わせください。